真夜中のゴロゴロセラピー 〜お疲れ様、私と小さな同居人〜

真夜中のゴロゴロセラピー 〜お疲れ様、私と小さな同居人〜

カレンダーの赤い丸が、じりじりと迫ってくる。そう、今日はプロジェクトの最終提出日前日。私の名前はミカミ アカリ、34歳、独身。

都内のデザイン会社で働くグラフィックデザイナーだ。この時期は毎度のことながら、オフィスは戦場と化す。
深夜残業?上等よ、なんて強がりを言ってみるけれど、本音はもうヘトヘト。
蛍光灯の下でアドレナリンを無理やり絞り出し、モニターと睨めっこした時間は、気づけば余裕で日付を越えていた。

「…終わったぁ…」

最後のデータをクライアントに送信し、椅子に深くもたれかかった瞬間、全身の力が抜けていく。体は鉛のように重く、まぶたは今にもくっつきそう。
同僚たちもゾンビのような顔で次々とオフィスを後にする。
「お疲れ様です…」「お先に失礼します…」か細い声が飛び交う中、私も重い腰を上げた。

会社の外に出ると、ひんやりとした夜気が火照った頬に心地いい。でも、それも一瞬のこと。
タクシーを拾う気力もなく、とぼとぼと最寄り駅へ向かう足取りは、まるで泥の中を歩いているかのよう。
ああ、早く帰りたい。温かいお風呂に入って、ふかふかのベッドで眠りたい…。

いや、その前に、まずあの温もりに触れたい。

自宅マンションの前に着いたのは、午前2時を回った頃だった。
オートロックを解除し、エレベーターに乗り込む。鏡に映った自分の顔は、アイラインが滲み、目の下にはうっすらクマができていて、自分でも「お疲れ様」と声をかけたくなるほどだった。
30代も半ば、この働き方、いつまで続けられるかな…なんて、弱気な考えが頭をよぎる。

真夜中のゴロゴロセラピー 〜お疲れ様、私と小さな同居人〜

チーン、と軽い音を立ててエレベーターが目的階に到着する。重い足を引きずり、自分の部屋のドアの前に立つ。
鍵穴に鍵を差し込む手が、疲れで微かに震えている。

ガチャリ、と鍵を開けて、ドアを少しだけ開けた、その瞬間。

「にゃーん」

世界で一番優しい声が、暗闇の中から聞こえた。
それと同時に、もふもふした温かい塊が、するりと私の足元に絡みついてくる。

「…ただいま、ソラ」

暗い玄関で、私は思わずその場にへたり込んだ。電気をつける気力なんて、もう残っていない。
バッグもコートもそのままに、床に座り込む私の足元で、愛猫のソラ(アメリカンショートヘアの男の子、推定5歳)が、満足そうに喉をゴロゴロと鳴らしている。

ソラのゴロゴロ音は、まるで低周波治療器みたいだ。体の芯までじんわりと響いてきて、さっきまでの疲労や焦燥感が、ゆっくりと溶けていくのを感じる。
そっとソラを抱き上げると、腕の中に確かな重みと温もり。ふわふわの毛に顔をうずめると、お日様みたいな、安心する匂いがした。

「にゃあ?(おかえり、遅かったにゃ)」

ソラが私の顔を見上げて、もう一度鳴く。
その大きな琥珀色の瞳は、まるで「大変だったね、よく頑張ったね」と言ってくれているようだった。

ああ、もう、ダメだ。涙腺が緩む。別に悲しいわけじゃない。むしろ、嬉しくて、安心しきってしまって、感情のダムが決壊しそうになる。

「うん、頑張ったよぉ…ソラのおかげで、また明日も頑張れるよ…」

言葉は途切れ途切れで、きっとソラには意味なんて分からないだろう。それでも、彼は私の腕の中で、ただひたすらゴロゴロと喉を鳴らし続けてくれる。
その振動が、どんな高級エステのマッサージよりも、私の心を、体を、深く癒やしてくれるのだ。

しばらくそうして玄関でソラを抱きしめていると、少しずつ気力が湧いてきた。
よし、まずは電気をつけよう。そして、ソラにご飯をあげて、私もシャワーを浴びて…。

真夜中のゴロゴロセラピー 〜お疲れ様、私と小さな同居人〜

リビングの明かりをつけると、そこにはいつもの私の「城」が広がっている。
少し散らかっているけれど、ソラがくつろげるように、猫タワーや爪とぎ、おもちゃがあちこちに置いてある、私とソラだけの空間。

カリカリ、と音を立ててご飯を食べるソラを横目に、私はようやくコートを脱ぎ、バッグを置く。
冷蔵庫を開けて、とりあえず炭酸水を取り出す。プシュッ、という音とともに、少しだけ気分がリフレッシュされた。

シャワーを浴びて、少しだけ人間らしさを取り戻す。髪を乾かす間も、ソラは足元にまとわりついて離れない。
「ドライヤーの音が怖くないの?」と聞いても、「にゃーん(平気だにゃ)」とでも言うように尻尾を揺らしている。
本当に、この子は私のストーカーなんだから。でも、それがたまらなく愛おしい。

真夜中のゴロゴロセラピー 〜お疲れ様、私と小さな同居人〜

ベッドに入ると、待ってましたとばかりにソラが布団にもぐりこんできた。私の腕枕ですやすやと寝息を立て始める。
規則正しい寝息と、時折聞こえる寝言のような「にゃ…」という声。そして、体に伝わる確かな温もり。

ああ、これだ。私が毎日頑張れる理由。
どんなに仕事で打ちのめされても、どんなに理不尽なことがあっても、この温もりとゴロゴロ音があるから、私は大丈夫だって思える。

目を閉じると、さっきまでの疲労感が嘘のように遠のいていく。
代わりに、心がぽかぽかと温かくなってくる。ソラの柔らかな毛並みを感じながら、私は思う。

「残業上等?」…いやいや、全然上等じゃないけど。

真夜中のゴロゴロセラピー 〜お疲れ様、私と小さな同居人〜

でも、この「真夜中のゴロゴロセラピー」がある限り、私はもう少しだけ、この都会のジャングルで戦える気がする。
ソラ、いつもありがとうね。君は、私にとって最高のセラピストであり、かけがえのない家族だよ。

明日はきっと、今日より少しだけ優しい世界が待っているはず。
そんな希望を胸に、私はソラの温もりを感じながら、深い眠りへと落ちていった。

おやすみなさい、私。おやすみなさい、小さな同居人。


via IFTTT

#保護猫東京 #保護猫ボランティア #保護猫から家族 #地域猫ボランティア活動 #猫写真 #猫大好き #猫のいる生活 #ねこ写真 #ねこ部 #ネコ写真 #ネコ部 #catsagram #cats

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です