「ふぁ〜あ…」
大きなあくび一つ。窓から差し込む柔らかな朝日が、私の城であり仕事場でもあるワンルームを優しく照らす。淹れたてのコーヒーの香りがふわりと漂い、さあ、今日も一日頑張ろう、とノートパソコンを開いたその時。
にゃーん。
足元で、甘えた声がした。見下ろせば、ふわふわの毛玉…いや、我が家の愛すべき同居猫、モカが上目遣いで私を見上げている。
「モカ、おはよう。でもね、ママはお仕事なのよ」
言い聞かせるように話しかけるけれど、モカにはそんな理屈は通用しないらしい。私の足にすりすり、ごろごろと喉を鳴らし、「それより朝ごはん!」と全身で訴えてくる。時計を見れば、まだ朝ごはんには少し早い時間。昨夜、寝る前にちゃんとカリカリは補充したはずなのに。
「もう、仕方ないなあ」
結局、その愛らしい要求には勝てず、キッチンへ向かう。カリカリを少しだけお皿に追加してやると、モカは満足そうに食べ始めた。よし、これで集中できるはず。席に戻り、気を取り直してキーボードに指を置く。
カタカタカタ…
集中、集中。今日のノルマは午前中に半分終わらせたい。取引先へのメールを作成し、デザインの修正案を練る。思考がクリアになってきた、まさにその時。
ドスン。
え? 何か重いものが…って、モカ!? いつの間にやらデスクに飛び乗り、あろうことかキーボードのど真ん中に鎮座しているではないか。画面には「fdjsかl;sdふじこlp;@」みたいな謎の文字列が打ち込まれている。
「こらー! モカ! そこはダメだって言ってるでしょ!」
慌ててモカを抱き上げる。温かくて柔らかい感触。腕の中で、モカは「何か問題でも?」と言いたげな顔で私を見ている。そのつぶらな瞳で見つめられると、怒る気も失せてしまうから不思議だ。
「もう…重いんだから。そこはお仕事する場所なの」
膝の上に乗せると、満足そうに丸くなってゴロゴロ言い始めた。まあ、これなら仕事できるかな? 片手でモカを撫でながら、もう片方の手でマウスを操作する。器用さが求められる在宅ワークである。
しばらくは平和な時間が流れた。モカのゴロゴロ音は、まるで心地よいBGMのようだ。しかし、平和は長くは続かない。オンライン会議の時間になった。
「では、〇〇の件ですが…」
ヘッドセットをつけ、真剣な顔で画面に向かう私。その時、膝の上で眠っていたはずのモカがむくりと起き上がり、スピーカーから聞こえる声に反応したのか、大きな声で鳴き始めたのだ。
「ニャーーーーオ!」
「あ…すみません、ちょっと猫が…」
画面の向こうの取引先の担当者が苦笑しているのが見える。恥ずかしいやら、申し訳ないやら。慌ててマイクをミュートにし、モカをなだめる。
「シーッ! 静かにしててね、お願いだから」
おやつで気を引こうとしても、今日のモカは手強い。まるで「私とも会議に参加させろ!」と主張しているかのようだ。結局、会議の間中、時折聞こえるモカの鳴き声に冷や汗をかきながら、なんとか乗り切った。疲労感がどっと押し寄せる。
会議が終わり、ぐったりして椅子にもたれかかると、モカがすかさずデスクの上へ。今度は、さっきまで使っていた重要な資料の上に、ふわりと着地し、香箱座り。
「…モカさんや、それは今日の午後に使う、とっても大事な資料なんですが」
どいてくれる気配は全くない。それどころか、気持ちよさそうに目を細めて、寝る体勢に入ろうとしている。無理にどかそうとすれば、機嫌を損ねて爪を出されるかもしれない。ああ、もう!
「…ちょっとだけだからね」
結局、モカが気持ちよく寝ているその資料は後回しにして、別の作業を進めることにした。私の仕事計画は、完全にこの小さな毛玉によって左右されている。
夕方。締め切り間近の案件にとりかかろうとした時、モカが最終兵器を繰り出してきた。デスクの端に置いた私のマグカップの水を、ちょいちょい、と前足で触り始めたのだ。
「あっ! ダメダメ!」
慌ててカップを移動させる。間一髪セーフ。しかし、モカは諦めない。今度は、パソコンの画面の前をうろうろし始め、マウスのカーソルを目で追いかけ、しまいには画面に飛びかかろうとする勢い。
「遊んでほしいの? もう少し待っててって言ってるでしょ!」
さすがに少し語気が強くなる。するとモカは、ピタッと動きを止め、私の顔をじーっと見つめてきた。そして、ゆっくりと私の足元に降りると、床にごろんと寝転がり、お腹を見せてくねくねし始めた。
「……っ!」
これは…反則だ。無防備なお腹、信頼しきった眼差し。仕事の邪魔ばかりするけれど、この子がくれる癒やしと愛情は、何物にも代えがたい。
私は深くため息をつき、椅子から立ち上がった。
「…わかった、わかったわよ。5分だけね。5分だけ、一緒に遊ぼう」
猫じゃらしを手に取ると、モカは目を輝かせ、さっきまでの「構って攻撃」が嘘だったかのように、元気いっぱいにじゃれついてきた。その無邪気な姿を見ていると、さっきまでのイライラや疲れが、ふっと溶けていくのを感じる。
短い遊び時間を終えると、モカは満足したのか、私の足元で静かに丸くなった。不思議なことに、あれだけ邪魔してきたのが嘘のように、穏やかな寝息を立て始めた。
その寝顔を見ながら、私は再びパソコンに向かう。集中できる時間は限られているけれど、この温かい存在が隣にいるから、頑張れるのかもしれない。
在宅ワーク最大の敵? いや、違うな。
この子は、私の日常に彩りと、予測不能な笑いと、そして何より、深い愛情をくれる、かけがえのないパートナーだ。少々(いや、かなり?)手がかかるけれど、この愛すべき同居猫との攻防戦は、きっと明日も、明後日も、続いていくのだろう。そして、その度に私は、困った顔をしながらも、結局はこの温かさに頬を緩めてしまうのだ。
窓の外は、すっかり夕暮れの色。さて、もう少しだけ頑張って、終わったらモカと一緒に美味しいご飯にしよう。そんなことを考えながら、私はキーボードを叩く。カタカタという音に混じって、すーすーと穏やかな寝息が聞こえる。それは、一日頑張った私への、最高のご褒美なのかもしれない。
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